公式予選−中編−
作成日:00/09/28
更新日:00/10/08

予選開始。1列目のライダーがスタートする。シールドをロックし、ギアをセカンドへ入れる。
隣のライダーにチラッと目をやる。

HIRO:(悪いけど、先に行かせてもらうよ。)

目の前でオフィシャルの黄旗が上がる。

クラッチをつなぎ、同列のライダーより先にコースイン。


 12:20 Cグループ第2ライダー公式予選開始 

2コーナー立ちあがって全開。先にコースインした前列の2台が見える。3コーナーのブレーキング開始後、随分手前から減速していた1台に追いついてしまい、アプローチ直前でやや強引にインをさす。ビクッとバイクを立てる相手。

HIRO:(おっとすまんね。今ちょっと急いでるんだ。)

4コーナー立ちあがって全開。もう1台はすぐ目の前。いつも通り5コーナーまでのストレートで離されるが、ブレーキングでこれをパス。

5コーナー立ちあがりでパワーを確認する。いつもなら4速までフロントが軽くなるはずだ。

HIRO:(くっ・・・だめだ!やっぱり遅い!)

期待したパワーは出ていなかった。

最終コーナーを立ちあがり、ホームストレート。計測開始。

先にコースインしたライダーはもう随分遠くにいる。1周目はばっちりクリアラップ。
しかし、早くも2周目からバイクが増えてくる。計測2周目の最終コーナーを立ちあがる。

Compus
RoadRacing
7−1


HIRO:(1周目から7秒1か。これならいける!)

2周クリアして3周イン。ここから次々にバイクが現れる。抜いても抜いてもきりがない。しかも丁度進入で引っかかるパターンばかり。


1コーナーはコースインしてきたバイクに丁度引っかかる。2周目9秒、3周目、4周目7秒。
3周目くらいからずっと同じCBRに引っかかっている。ストレートでスピードが乗らず、進入で抜けない。

HIRO:(どうする?どうすればいい?こんなんじゃタイム出せねーよ!)

抜けるだけ抜いていけば、後半必ずチャンスはあるはずだ。空気抵抗を出来るだけ減らそうと、コーナーの立ちあがりでもヘルメットをタンクにピッタリとつけ、スクリーンから頭を出さないようにする。上体を起こすのはブレーキングの時だけ。

HIRO:(くっそぉ〜。泣き言はタイム出してからだ!)

5周目のVコーナー立ちあがり。目の前を走るニンジャがぶるっとした瞬間ハイサイド。
転倒したバイクはガッシャーとこちらに腹を向けてコース上をまっすぐ滑って行き、間一髪でこれをよける。

HIRO:(あっぶね〜。なんだ今の転倒・・・一瞬で人間ふっとんでった・・・。)

6周目の最終コーナーを立ちあがり、5周目のタイムを確認。

Compus
RoadRacing
8−1


パワーが落ちたからか、130Rも4速全開で入れるようになった。膝を出すのは進入の時だけで、すぐとじる。アウト一杯まで引っ張りきって5速へシフトアップ。ブレーキングポイントは限界まで奥にとり、フロントはフニャフニャと頼りなく、リアは左右に振られる。

伏せっぱなしでS字を立ちあがる。スクリーン越しに数台のバイクが見えた。Vコーナー進入。はっと上体を起こし、ブレーキング。コーナーポストの黄旗が目に入る。

HIRO:(黄旗!)

Vコーナーへ4,5台のバイクが1列に進入していく。俺のすぐ前を走るCBRはその最後尾へつく。
ブレーキングが間に合わず、CBRをアウトから抜いてVコーナーへ進入。しかし立ちあがりで別のバイクに前をふさがれ、イン側からまたCBRに抜かれる。

HIRO:(やっべ〜。ペナルティー取られるかも。)

ヘアピンで数台パスする。完全に捨てラップなのでストレートで抜けるバイクだけ抜くと、アクセルをゆるめて間合いを計る。

最終コーナーを立ちあがり、6周目のタイムを確認。

Compus
RoadRacing
6−0


HIRO:(えっ?!)

一旦目を離したが、又見直す。

HIRO:(今、確か6秒フラットと出てたよーな・・・6秒8の見間違いか?)

半信半疑で1コーナーへ進入する。ずっと同じように引っかかってるこの状態でとても6秒フラットが出たとは思えなかったし、昨日も0と8を見間違えていた。

記:goma
最初のタイムは7秒台(まずまず)これなら5秒後半も夢じゃない?
これで、他のバイクにひっかからなければ・・・いけるよ。
少し前を走る赤いバイクと見間違えそうになりながらも必死に計測する。
普段の走行で5,6周目のタイムが一番いい彼は今回も6周目に「5’98」
思わず「うっそぉぉぉぉぉ〜。」そしてえみゅに「私の時計は5秒でたけど、テレビはどうかな?」
えみゅ「確認してきまぁ〜すぅ」とPITに戻るえみゅ。
PITではおーたさんが○サインを出している。そしてえみゅが戻ってきた「6秒02ですぅ」
ここで、正しいタイムを出すためサインボードに[6−0]と出す。
OKも出したかったが、ボードでOKは出せないし・・・。なんとか伝えたかった。
このタイムを出してから周りにバイクが増えてきたようだ。これ以上のタイムは出せるのかなぁ?
少し不安になりながらも、計測を続ける
記:えみゅ
特にやることはなかったけど、サインガードでgomaさんの隣に座る。

数周するとgomaさんが「も、もしかしたら入ったかもしれない!!」と興奮した様子。
手元のストップウォッチは2’05”97を表示していた。

えみゅ「か、確認してきます!!」

急いでピットに戻ると計測機器では2’6”029とのこと。
そのままサインガードに戻りgomaさんに伝えた。
サインボードには手元ではなく計測機器のタイムが表示された。
このとき、(7耐決勝、走れるかもしれない)と思った。
記:おーた
すぐ7秒1が出たが、走行台数が多いため走り辛そうだ。

「クリアラップがとれそうもないな」

何周目か忘れたが、モニタに2分6秒021が表示された。
サインガードからえみゅが走ってくる。

えみゅ:「5秒9でたよ」
俺: :「モニタでは6秒0だよ」
えみゅ:「そ、そう」

サインボードには6秒0の表示が準備された。(この時に、5秒9で表示してればよかったのかも)

「もうタイムを出す必要はないな。でも、ライダーとしてはもうちょっとタイムを縮めたいだろ」

昔のHIROなら速効PIT INのサインがでたたろうが、
最近の走りは安定していて転ぶような奴じゃないので安心していた。
記:アキラ
計測1周目から7秒1。

「いける!これならベストを更新できるはずだ。」

心配ない。HIROは絶対やってくれる。
予想が確信に変わった。

そして6周目に出したタイムは6秒029!

「やったー!!6秒0!」そして、思わず両腕でガッツポーズ。

モニター前に人が群がる。
(HIROさん凄いですね!) (やってくれたよ!) (速えぇなー) 
みんなが嬉しそうにささやく。

  「これでもう大丈夫ですよね!」 誰かが言った。

俺 「あとコンマ2秒くらい欲しいなぁ。より確実にしたいしぃ〜」
  完全に楽観ムードだ。

(あとは思いっきり走って帰ってこい・・・帰ってきたらヒーローだ。) 

心の中で何度もつぶやいた。
記:すぅ
気合入りまくりのHIRO選手、1周目5番目でホームストレートに戻り、とにかくクリアラップ確保を狙う動き。
2周目に早くも7秒1。
順調にラップを重ねるHIRO、タイムモニターを睨み付けるアキラ。
オレはレポートの準備のためにピット裏のテントでVAIOを立ち上げる・・・
「やったー!6秒0!!」
アキラの声に皆がモニターに群がる

5 78 Compusロードレーシング 2’06”029

C組第2ライダー5番手のタイムだ。
これで、予選通過は確実。一安心。

さらにタイムアップを狙ってアグレッシブに走るHIRO選手。
「やったね、予選通過だね」「やったよ、やったよ。やってくれるねー」
ピットは和やかな雰囲気。
よーし、もうゆっくり帰って来い(^^)
HIRO:(いや、確か0だった・・・。だとすれば予選は通過してるはず。)

HIRO:(まぁいい。このまま走行を続ければまたボードで確認出来る。)

HIRO:(まずは予選通過。よっしゃ!本当の予選はこれからだ!)

ブレーキを握りながら強引にコーナーへ入り、方向の変わっていないバイクをハンドルで無理やり行きたい方向へ向ける。こんなめちゃくちゃな乗り方をしたのも始めてだが、奇麗ごとを言ってる場合じゃない。

Vコーナーはオイル旗が出ている。ずっと引っかかってたCBRをやっと抜き、8周目の最終コーナーを立ちあがる。サインボードには前周の捨てラップのタイム10秒9が表示されている。

HIRO:(今のラップ、そんなに引っかからなかった。次帰ってくれば6秒フラットが証明出来るはずだ。)

HIRO:(くそぉ。あと何ラップ残されてるんだ・・・残りラップ数出しといてもらえばよかった。)

HIRO:(いずれにしても、もう時間が無い。あの6フラが幻だったら予選落ち・・・。)

HIRO:(いやだ。絶対いやだ。2年連続で予選落ちなんかしたくねぇっ!)

9周目、次々に前からやってきたバイクも段々少なくなってきた。5コーナーの進入で1台のバイクをパスする。ロスになるような抜き方じゃない。130Rを立ちあがるとS字に入るバイクが見える。

S字を立ちあがる。前を走るバイクはすぐ前まで迫ってきた。

HIRO:(やべっ!)

このまま行けば、またしても丁度コーナーで引っかかるタイミングで追いついてしまう。もうロスしてる時間は無い。Vコーナーに黄旗は出てない。

接触覚悟!

HIRO:(行くしかねぇっ!すまん!)

極限までブレーキングを遅らせ、クリップへ向かってバンクを開始した前車のインへ強引にバイクをもっていく。
フロントは限界を超え、フルブレーキ中でもサスが前後に激しく挙動する。完全に減衰不足だ。
強引にバイクを寝かせ、無理やりアクセルを開ける。

アウト一杯でVコーナーを立ちあがる。

両手に軽い振動を感じた。接触もコースアウトも無く、Vコーナーがクリア出来たと思った瞬間だった。

ハッとハンドルを見るとロックするまで左一杯に切れこんでいた。

HIRO:(えっ?!!)

切れこんだハンドルの残像を残し、ものすごい力でバイクから放り投げられる。何が起こったのか分からない。
アスファルトに叩きつけられ、なすすべもなくゴロゴロと体が回転する。
VTRが自分に向かって転がってくるのが一瞬見えた。しかし、慣性力に身を任せるしかない。

HIRO:(やばいっ・・・。)

背中に強い衝撃を感じる。

HIRO:「ぐはっ!」

その後も俺の体は2度3度回転を続け、ぺたんとしゃがみこむ形でやっと止まる。普通じゃない事態を直感した。

HIRO:「・・・。・・・。」

息が出来ない。必死で呼吸を復活させようとする。

HIRO:「・・・。・・・。」

転倒直後に呼吸困難になった事は今までだってある。しかし、そろそろだろうと言う頃になっても息を吐く事が出来ない。

死。この1文字が頭をかすめる。

HIRO:(死んじゃう・・・苦しい・・・。)

HIRO:「かっ・・・・・・・・」

HIRO:「かっ・・・かっ・・・がはっ・・・」

HIRO:「はっ・・・がはっ・・はっ・はっ」

少しずつ呼吸が回復してくる。最初は吐くだけ。徐々に吸う事も出来るようになる。

傍らでオフィシャルが「足大丈夫?!足大丈夫?!」と叫んでいる。

呼吸が苦しくて他の事に気がまわらない。シールドを開けたかったが、両腕に力が入らず、だらりとして動かす事も出来ない。



やがてタンカが運び込まれ、オフィシャルに体を預ける。ぐったりとして自分の力で体を動かすことが出来ない。


スポンジバリアの外側でタンカのまま地面に下ろされる。

HIRO:「はっ、はっ、はっ、はっ」

転倒直後よりは大分呼吸が回復してきた。それにしても何故か少しずつしか息が出来ない。時間が経っても相変わらず息苦しさは変わらず、辛くて目も開けられない。

HIRO:(どうなっちまってんだ・・・俺の体・・。背中痛てぇ・・・。)

脊椎の損傷を恐れ、とりあえず自分で手足の指先が動く事を確認する。少しずつだが、肘や膝も曲げられる。手足に痛い所は無い。

HIRO:(最悪は無さそうだな・・・それにしても苦しい・・・。)

無線連絡してるのか、「傷害ランクCです!傷害ランクCです!」とオフィシャルの叫び声が聞こえる。

HIRO:(C?・・・Cってどんな状態なんだ・・・。しかし暑い・・・。喉がカラカラだ・・。)

オフィシャルにヘルメットとグローブをとってもらい、胸のチャックをおろしてもらう。腹に巻いてある脊椎パッドのベルトもとってもらったが、息苦しさは変わらない。

記:トシ
S字で兄貴の走りを見てました。
放送で「ゼッケン78番転倒〜」と聞いたときは焦りました。
Vコーナまで行って、確認しましたが遠くて見えませんでした。
記:アキラ
予選時間が残り少ない。
HIROは他マシンに引っかかっているらしく、これ以上はタイム更新できないようだ。

(でももういい、予選は通過出来るだろう) 
ようやくホっとできそうだと思ったその時。

「戻ってこない〜」

サインエリアでえみゅが叫んでいる。

「転倒!?オーバーランか!?」
思わず口にした。心臓の鼓動が突然速くなる。
周りで誰かが何か言っているが、耳に入らない。

そして放送。
「ゼッケン78番のチーム関係者の方はメディカルまでお越し下さい」

(やっちまったのか?まさか大怪我・・・。) 

goma、えみゅ、とメディカルへ走る。

(骨折・・・?いや、Vコーナーだし、たいしたことないよな・・・) 

必死で自分に言い聞かせる。

(無事でいてくれ・・・・俺の危惧で終わってくれ・・・) 

走りながらどっと汗が吹き出してきた。
記:goma
いつも通り2分を過ぎた頃からボードの用意! 赤いバイクが来た。すかさずボードを出す。
えっ?サインボードを出し間違えた。何度か間違えそうになったバイクに出してしまった。
他に赤いバイクは来ない・・・・なに?じゃなんで帰って来ないの????
どうして?どうして? 2分30秒を過ぎたらオーバーランでもない気がして、PITを振り返る。
が、転倒するとズームアップされるテレビに映っているのを見た人がいないらしい。

「ゼッケン78番のチーム関係者の方はメディカルまでお越し下さい」

突然のアナウンスだった。
記:えみゅ
通過タイムを出した2周か3周あと、HIROさんの乗ったVTR君はホームストレートに帰ってこなかった。
いつもならピットインする周でも帰ってくるはずのタイムをずいぶん過ぎている。
gomaさんと2人、不安になる。
TVにも映らなかった、放送もされてない。
ピットに戻りTVとピット前をうろうろしていると、メディカルセンターへの呼び出しがかかった。
(ま、まさかやっちまったのか・・・?)
おーたさんに「なにか飲むもの持っていってあげて」と言われ、クーラーボックスからHIROさんの水を出し、メディカルへ急いだ。

このときはまだ救急車から歩いて降りてくるHIROさんを想像していた。
記:おーた
サインガード:「戻って来ない!!」

直感的にオイルに乗ったんだと思った。

「ゼッケン78番のチーム関係者メディカルセンターにお越しください」
とのアナウンス、とりあえずメディカルに行く。
記:すぅ
(場内アナウンス)「おーっと、ゼッケン78番です。ゼッケン78番Compus・・・・」
(オレ)上を指差して「ゼッケン78番だって」
(アキラ)何が?という顔で「そうだよ。6秒0だよ」
あれ?
(えみゅ〜)サインエリアから「戻ってこなーい。HIROさん」
まさか?転倒かぁ??
8周目、9周目と6秒中盤でラップしていったVTRが戻ってこない。
(場内アナウンス)「ゼッケン78番の関係者の方、メディカルルームまでお願いします」
アキラ、gomaが走る。
メディカルで聞くとVコーナーでの転倒との事。
「Vコーナーならスピード出てないし、立ちでのハイサイドじゃなきゃ大丈夫だね」

緊急車両が到着し、タンカのまま乗せられる。カーブを曲がる度、上半身に痛みが走る。

HIRO:(痛てぇ・・・苦しい・・・なんでもいいから早く楽にしてくれ・・・。)

随分長い時間車に乗せられてたような気がする。目を閉じ、ひたすら痛みに耐える。

しばらくしてやっとメディカルへ到着し、タンカから診察台に移される。

 12:45 メディカルセンター 

HIRO:「はっ、はっ、はっ、はっ」少しずつしか呼吸出来ない。かなり息苦しく、心臓もばくばくしてる。

医師:「どこが痛いぃ〜?」

HIRO:「はっ、はっ、はっ、はっ」声が出せず、痛みに耐えるので精一杯。

看護婦:「どうしましょうかね?脱げますかね?」

医師:「ちょっと〜脱ぐの無理そうかな〜。」

医師:「ま〜だぁ結構きれいだしな〜。」

10年以上も前になるが、始めて買ったつなぎもこの調子で切られた事がある。

HIRO:(き、切られる・・・。)

苦しくて声が出せない。目をつむったままの状態で無理やり上半身を動かし、脱げる事をアピールする。

HIRO:(まだ買ったばっかなのに・・・切られてたまっかよ・・・。)

医師:「おっ。脱げるか?看護婦さん、ちょっと手伝ってあげて。」

HIRO:「・・・。・・・。」(ここ、ここ引っ張って)

声に出せない。袖口をバタバタさせてアピール。

看護婦:「ここっ?ここ引っ張ればいいの?」

肩が出てない状態で袖口だけ引っ張られる。胸が痛い。

HIRO:「・・・・・っ、はぁっ!はっ、はっ、はっ」

HIRO:(い、いてーぞ看護婦!肩出てねーのに引っ張ってどーすんねん!)

HIRO:(アキラ・・goma・・・誰でもいい。知ってる奴いねーんか。)

必死で肩を出そうとする。悪戦苦闘しながら両肩からつなぎが外れ、やっと脱ぐ事が出来た。

HIRO:「はっ、はっ、はっ」(せ、セーフ・・・。)

インナーは簡単に脱げ、パンツ一丁という姿。

看護婦:「大きくゆっくりと呼吸するようにして下さいねぇ〜。」

HIRO:「はっ、はっ、はっ」(俺だってそーしてーよ・・・。)

医師:「はい、足の指動かせる〜?」

HIRO:(さっき確認したから大丈夫だよ。)足の指を動かす。

医師:「膝は動かせるかな〜?」

HIRO:(それもやった。)軽く動かしてみせる。あまり大きくは動かせられない。

手も同様に確認する。神経は大丈夫そうだなとかなんとか独り言をつぶやいている。

看護婦:「おぉ〜きくゆ〜っくりと吸いこんでみて〜。」

HIRO:「はっ、はっ、はっ」(できねーっての!)

診察台からストレッチャーに乗せかえられ、処置室らしき部屋へ移動する。

体内のX線映像がモニターに映し出され、医者同士でなんだかわからん専門用語が飛び交う。
痛くてそれどころではないのだが、モニター見たさに首を横へやる。真ん中にある黒い物体が爆発しそうな勢いでどっくんどっくん動いてるのが見えた。

HIRO:(こ、こえぇ〜。俺の心臓すんごい事なっとるな・・・。)

HIRO:「はっ、はっ、はっ、はっ」

医者が耳元で肺がどうのと説明しているが、痛みでよくわからない。とりあえず今すぐここで肺に関する手術を施す事だけが伝わった。右手に点滴の針が入れられ、口に酸素マスクがあてられる。

HIRO:(なんでもいいから早く楽にしてくれ・・・。)

今度は手術台に乗せられ、シーツをかぶせられる。どんどん事態が大きくなっていくような気がした。

医師:「はい、麻酔するからねぇ〜。ちょっと痛いよぉ〜。」

HIRO:「はっ、はっ、はっ・・・・・・・はぁっ、はぁっ、はっ、はっ」

左わき腹に2度3度痛みが走る。苦痛で更に顔がゆがむ。

医師:「痛い〜?大丈夫?まだ痛い?」

とか言いながら既にメスを入れられてるのが分かる。

HIRO:(いてーよっ!もうやってんじゃねーかよっ!)

メスの痛みは感じなかったが、麻酔の針の痛みが暫く続いたような気がした。

HIRO:「はっ、はっ、はっ」

医師:「クダ入れるからねぇ〜。ちょっと痛いよ〜。頑張ってね〜。」

上半身は数人に押さえられている。わき腹から異物が体の中に入ってくるのが分かる。

HIRO:「ぐっ・・・ががぁっ・・・。」

激痛が走り、あまりの痛さに思わず膝が上がる。

医者は「うっわ、すっげ。」とか「こりゃ間違い無い。」とか叫びながら処置を続けている。

「どう?楽になったでしょ?」と、大声で叫ぶ医者

HIRO:「はっ、はっ、はっ、はっ」(ならねーよ・・・すっげーいてーよ・・・。)

手術が終わったのか、手術台からストレッチャー、そして再び診察台へ移される。そのたび胸と背中にひどい痛みを覚え、自分で動かせない自分の体がとても重く感じた。

医師:「声出してみてー?」

HIRO:(声?でねーって・・・。)口を開けて声を出そうと試みるが、痛さと苦しさで声が出てこない。

HIRO:「ぁ〜〜〜〜・・・。ぁ〜〜〜〜。」

医師:「もっと〜。声出して〜。」

この医者はどうしても俺の声が聞きたいらしい。何度やってもダメなのに、しつこく要求してくる。

HIRO:「はぁ〜〜・・ぁ〜〜・・ぁ〜・・はっ、はっ、はっ、はっ、・・・・ぁ〜〜。」

HIRO:(もう、この辺で勘弁してくれ・・・。)生涯、これ以上情けない声を出したことは無いと言いきれる声だった。

記:goma
アナウンスと同時にメディカルまでダッシュ!45番PITからメディカルはすぐそこ。
メディカルには、怪我をしている人とそのチーム員の一人が処置室外の椅子にすわっている。
アキラさん、えみゅ、てんちょ、くれさんが無言で救急車を待つ。
動揺している私にへびねえが「大丈夫、大丈夫」と繰り返し暗示をかけてくれている。
しかし、救急車の来る気配がない。何分そうしていたかも覚えていないが、
やっと来たと思ったら、ストレッチャーの上で大の字にぐったりしている。
まさか、骨折?と思って様子を伺うと・・・
「背中が痛くて呼吸が苦しいそうです」と運んできた人が言えば
「手足は動きますかぁ」と看護婦さん?が尋ねる
「・・・」返事なし
そのまま処置室へ・・・。色々な思いと騒がしくなった処置室内の会話。
「横むけますかぁ〜」「・・・」あぁぁオニューのツナギも切られてしまうんだぁぁぁ。
暫く真っ白な時間が過ぎて、透明ごみ袋が渡された。
中にツナギ、インナー、靴下が入っている。すぐにてんちょがツナギを出して、
転倒の様子を推測する。「ハイサイドで転がっているな」
てんちょとくれさんは次のえいじくんの走行がせまってきたのでPITへ
メデューサさんとえみゅはメディカルとPITを何度も往復してくれ、ツナギとかヘルメットとか運んでくれました。
記:えみゅ
メディカルに入るとHIROさんはまだ着いていなかった。
しばらくすると救急車が到着。
HIROさんはストレッチャーから起きあがれずそのまま処置室に運ばれていった。
目は開いていたし意識もあるようだったがかなり苦しそうだった。
そのとき初めて(大変なことになってしまったんだ・・・)と思った。
なんの根拠もなく、gomaさんに「大丈夫、大丈夫」と言っていた。

処置室に運ばれたHIROさんは先生による手足の感覚の確認をされていたらしい。
その時は処置室のドアが開いていたのでてんちょさん、Kureさん、アキラさんがその様子を見ていた。

アキラさん「手足の感覚はあるみたいだから脊髄は大丈夫そうだよ」
その言葉に少しほっとした。

ヘルメットとグローブは先に返されていたのでとりあえずそれをピットに置きにいった。
ピットでおーたさんにヘルメットを見せた。
ヘルメットには顎のあたりにキズがついていたが、それ以外は目立つキズはついていなかった。

おーたさん「頭は打ってなさそうだね。」
またちょっとほっとした。

メディカルに戻るとまだHIROさんの処置は終わってなかった。
しばらくして職員からツナギが返され、そのツナギを広げてチェックするてんちょさんとアキラさん。
ツナギは前面の胸から腰にかけて黒くこすったような後がついていたが、背面には特に汚れが見られなかった。
その汚れから転んだ状況やどこから落ちたのか、どこを打ったのか推測していた。
その後、予選のためてんちょさんとKureさんとメデューサさんはメディカルを後にした。
ツナギはメデューサさんがピットまで持っていってくれた。
記:アキラ
メディカルに入るとまだHIROは運ばれていなかった。

(たいしたことないよな・・・。けっこうあっさり歩いて降りてきたりして)

救急車の到着と同時にその考えは裏切られた。
担架で運ばれてきたHIROはとても動けそうではない。

オフィシャル:「背中が痛くて呼吸も苦しいそうです」

(まさか、脊椎損傷・・・?)

そのまま処置室へ運ばれるとすぐにツナギを脱がされる。
中の会話を息を殺して聞いていると、どうやら手足は動くそうだ。

(最悪の事態はなさそうだな・・・。でももう今回は無理かもしれない)

息が苦しいと言うことは、あばらの2、3本は持っていかれてるだろう。
ハイサイドなら鎖骨もやっているかもしれない。
どちらにしても運ばれてきたHIROを見た瞬間、決勝は無理だと思った。

(クソッ!なんてこった!タイムは出たって言うのに!)

横ではgomaが青白い顔でたたずんでいる。

こんな時何を言ったらいのか・・・・言葉が見つからない。

「手足が動くみたいだから脊椎は大丈夫そうだ。」

gomaとえみゅに言う。二人とも頷くがその表情は変わらない。

(くそぅ。。。何かこの場を和ますことはできないのか)

処置室からツナギなど装具がビニールに入って出てくると、ドアが閉められた
重苦しい空気が3人に漂う。中ではレントゲンを撮っているようだ。

(こんな時・・・そうだ!ギャグだ!俺はどんなときでもギャグの一発でかわしてきたはずだ!)

しかしどんなギャグがあると言うのだ。この状態で。

(たしか・・・仲間がなにかとんでもないことをした時、必ず言う一言があったな・・・?なんだっけ?)

(あ、思い出した!!)

      『頼むから死んでくれ!』

(や、やべぇよ!コレは今日だけは言えねぇぞ・・・)

けっきょく、気のきいたギャグは思いつかなかった。
記:おーた
HIROが運ばれてきた。
担架に乗せられてきたHIROは、ずいぶん苦しそうだったが、俺らにはなにもすることができない。

「とにかくマシンをなおさなきゃ」

トシが基準タイムをクリアしないと正式には予選通過にはならないため
メディカルの方は他の人に任せてすぅさんとマシンの修復にとりかかることにした。
記:すぅ
程なく救急車がメディカルに戻ってきた。搬送ベッドが下ろされ処置室に運び込まれていく。金網越しにHIROの様子を覗うと、動く様子がない。
動けない様態なのか?照れ隠しに動けないのか?判断はつかない。
メディカルにはアキラとgomaが行っている。
メディカル前でうろうろしていても何の役にも立たないので、メカとしてできることに専念する。
怪我が大した事ないことを祈りつつ、次の走行に向けてバイクを受け取りに行く。

車検場前の広場で待っていると、ドナドナに乗せられ主を失ったVTRが寂しげに運ばれてくる。
バイクの損傷は?バイクの壊れ方を見ればどんな転倒の仕方か、ライダーのダメージがどのくらいか、大体の予想はつく。
ドナドナからバイクを降ろし、受け取る。損傷が酷い。ハイサイドだ。
スクリーンが吹き飛び、ブレーキとクラッチのリザーバタンクが潰れている。
クラチッチレバー、左ステップは根元からなくなっている。
ガソリンタンクの上面と左サイドにへこみと路面に擦れた傷が生々しい。
Vコーナーで何があったのだろうか?立ち上がりでゼブラを踏んだのか??
バイクが回転し、上面から路面に叩きつけられたのは明らかだ。
ライダーのダメージも決して小さくはないはずだ。
クランクケースカバーは削れて穴が開きオイルが垂れている。
アッパーカウルステーの根元、フレームとの付け根は衝撃でクラックが入っている。

とにかくピットへ戻って第3ライダーのトシの予選までに走れる状態に戻す。
HIROが無事に戻ってきたときに6秒で走れるようにマシンを修復する。
それだけを考えてマシンに取り付く。
記:トシ
VTRが悲惨な状態で戻ってきた。
忙しくおーたさん、すぅさん、devilさんがVTRを修復しているときに、
「としっ!どっかのチームからクラッチマスター借りてきて!」
と、汗だくに修復しているおーたさん。

とりあえず、闇雲にピットを回ってVTRを探したが、よく見えない!らちがあかない。
エントリーリストとピット割り当て表を見ながらVTRで出場しているピットにマークを付けて虱潰しに聞いて回りました。

『もぉ〜どこでもえぇ〜。』
チームIWAKIへ足を進め
岩城 滉一が優雅にメシを喰っている所へ申し訳なさそうに
俺「78番ですけど、転倒して・・・(中略)
 クラッチマスターカップの予備があったら譲って欲しいのですけど...」
メカ「ありますよ」
 と、差し出されたブレーキマスターカップ。
俺は動転していたのか、喜んで持っていったブレーキマスター。
当然おーたさんに「ちゃう!」と言われて再度チームIWAKIへ
俺「あの〜ブレーキマスターではなくクラッチマスターですけどあります?」
メカ「あぁ。ありますよ。ちょっと待ってね。」
と快く貸してくれました。
『チームIWAKIに感謝』
処置は続く。ちっとも楽にならないし、痛みは更にひどくなったような気がした。エアコンが少し寒く感じた。
ふと誰かの「あとどれくらいで飛べる?」と言う声が聞こえた。

HIRO:(飛ぶ・・?飛ぶって何だ・・・まさか・・・。)

「上空何フィートまで上がるのかな?」とか「肺大丈夫かな?」等と言った会話が聞こえてくる。

HIRO:(やっぱり・・・俺ヘリでどっか連れてかれるんだ・・・。)

続く


[公式予選−後編−]に進む

['00もてぎ7時間耐久参戦計画]に戻る

[Compus Road Racing]