シェイクダウン
作成日:00/05/01
更新日:00/05/13

4月21日、金曜日。明日から2日間の走行に備え、もてぎ入り。今日はシェイクダウン前の整備日。コースは4輪の走行会が行われていた。
受け取ったままのまだ何もしていない状態のTZをトランポから降ろし、ピットへ入れる。
新車であってもレーサーの場合は全バラ基本らしいが、俺の場合決してそのような事はしない。
なぜならそれは単にめんどくさいからだ。(シャキーン)
とは言っても1日で出来る範囲で最低限のチェックを行う。足回りを中心とした締付けトルクやサスセッティングの確認、スプロケットの交換。エンジンは点火時期やピストン突き出し量等腰上のチェック。


作業は昼前から始めたものの、以前乗っていたTZとは所々勝手が違うし、マニュアルを読んだり買い物に行ったりとのんびりやっていたので、カウルを着けた頃は夜の8時を過ぎていた。外は土砂降りの雨。
結局フォークが1o突き出されていたのと、ステアリングダンパーステーの締付けトルクが少なかったくらいで、あとは全てマニュアル通りに組み付けられていた。

最後にガソリンと水を入れ、エンジン始動。
バッテリーのカプラーを繋ぎ、メインスイッチを入れる。「ニー、ニー」とYPVSが初期動作し、電磁ポンプが「トカトカトカトカ」とキャブにガソリンを送る。タコメータの針は一旦「ニューン」と14,000回転まで振り切れてゼロに戻る。タコメータ内に配置されているデジタル水温計には「LO」と表示されている。

「う〜ん。電気じかけ。」95TZにはバッテリーなんぞ付いていなかった。

ギアを入れ、クラッチを握り、バイクを押す。
「よいせっ。」「カシャカシャカシャぼろろろ・・・」大雨の外には出たくないので、これをピット内で5往復。かかりそうでかからない。

「はぁっはぁっはぁっ」息が切れている。疲れた。

そーいや、チョークつーもんが付いてるんだった。」チョークを引き、再アタック。

「そりゃっ。」「カシャカシャカシャぼろバンッバンッバンッバラバラバラ・・・」1発でかかる。

「はぁ〜。やっとエンジンかかった。」マニュアル通り、3分程5,000回転以下で暖気し、水温70℃までは8,000回転以下をキープする。


70℃を越えた所で高回転域まで回そうとするが、ジェットが濃すぎて1万以上回らない。

「こんなもんなんかな。まぁいっか。」

それにしても久しぶりの整備はかなり疲れた。手のひらはパンパンにむくみ、腰が痛い。筋トレはやっているものの、普段の仕事は指先しか使っていない事を痛感する。

「完全にパンピー化しとる・・・。」

明日はいよいよこいつをコースに出す。整備もライディングも徐々に戻していかなくては。



明けて22日、土曜日。明け方近くまで降り続いた雨はすっかり上がり、朝からすっきりした青空が広がっている。
1本目の走行が10時過ぎからなので、遅めに東のパドックに入ったが、既にピットは一杯。来週末はここでエリア戦が行われる為、そのエントラントが練習に来ている。
適当にピット裏へ車を止め、バイクを降ろす。
水もガソリンも昨日の内に入れておいた為、ラジエターにガムテを貼り、タイヤのエアをチェックして走行開始を待つ。
バイクに乗るのは去年の7耐以来。TZに関してはもう1年近く乗っていない。慣らしとは言え、久しぶりのサーキット走行に緊張せずにはいられない。


そして10時20分。1本目の走行。いよいよシェイクダウンの開始だ。慎重にクラッチを繋ぐと、低回転ながらトルクを感じる。コースイン。
慣らしは8,000から12,000回転まで1,000回転毎に10kmずつ行う。東コースは1周3.4kmちょっとなので、3周10kmの計算で丁度いい。
最初の1周でコースを確認する。セカンドアンダーにウェットパッチがある以外は全面ドライ。タイヤも新品なので、慎重すぎるほど右側キープで1周する。
そのまま8,000回転で3周し、4周目のストレートから9,000回転。
と思ったが、エンジンは8,000回転以上回ってくれない。やる気無くしてピットイン。

「も、ジェット濃すぎ。」

キャブセッティングは出荷状態のまま。両シリンダー共メインジェット580番に、ニードルジェットS4がぶち込んである。
ヘッドを開けると、全然焼けが出てないかわりにピストンもヘッドもベトベト。こんなん始めて見た。
レーサーの出荷は1月の寒い時期を狙ってセッティングされている。気温20℃を越えている今日の気象条件で出荷状態はやりすぎた。
それで今度は思い切ってメインジェットを100番落し、480番。ニードルも2ランク落としてS2を入れ、12時丁度、2本目の走行。

今度は9,000回転から始める。7周目に入り、11,000回転まで回そうとするが、やはり10,000回転で頭打ち。
赤旗中断で一旦ピットインし、再度出て行こうとするが、なんだかバイクがおかしくなった。
音も弱々しいし、クラッチを繋いでもエンストしそうになり、トルク感が全然無い。

どんどん悪くなっていく気がして混乱する。訳が分からない。
とりあえずコースインし、ストレートで全開にするが、エンジンは10,000回転以上回らず、そこまでの加速も先程より悪くなっている。
ショートカットを立ち上がり、全開。

「ばぁぁぁぁぁぁぼぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「ちっ。失火してやがる。」

丁度5速、6速のスピードが出ている所で完全に失火している。何かガス欠の症状によく似ている。クラッチを切ってアクセルをあおらなければ爆発を始めてくれない。そのまま3周するが、どうにも耐えられなくなった頃、ショートカットで125のライダーに追い討ちをかけられた。
俺に向かって左足で蹴るしぐさをしながら抜いていくライダーの、こっちを向いたヘルメットが激しく上下している。
「ちんたら走ってんじゃねーぞコラ!邪魔なんだよボケ!」(と言ってる風に聞こえた)
「シートにナって書いてこんなおとなしく右側走ってんのに・・・。」
これで完全にへこんだ俺はピットにバイクを入れる。もう今日の走行枠は無い。
(悪い事した覚えも無いし、納得いかなかったから走行終わった後速効文句言いに行っちゃったけど)

「はぁ〜。どーすりゃえーんじゃ。」Tシャツに着替え、TZを前にしてたたずむ。
ガス欠の症状に似ていたのが気になる。全体的にパワー感が無いのも気になるが、特に高速域で症状が顕著に出ている。電磁ポンプやパワージェットがうまく作動してないのか?電気系のトラブルだったらお手上げだ。

goma:「あのさぁ、煙かたっぽからしか出てないね。」

俺:「えっ!まじ?」

エンジンをかけてみると、確かに右側のチャンバーから排気されていない。

俺:「げ。片肺じゃんか・・・。なんでやねん。」ちょっと安心し、エンジンを止め、原因を探る。
まずはプラグ。プラグキャップはちゃんと入ってるし、そこまでの配線も問題無い。

「テスター持ってねぇしなぁ。」今度は実際見て確認してみる。
プラグを外し、キャップに付ける。片肺のままエンジンを始動し、プラグをエンジンに近づけてみようと試みる。
バイクに乗ったまま左手でアクセルをあおり、右手でプラグの付いたキャップを持つと、エンジンのバラバラと言う音にシンクロしてビリビリと指先から感電する。

慌ててエンジンを止め、「ぷ、プラグおっけー。(汗)」

「ちゃんと点火してるみたいだな・・・。」と何気にシリンダーを触わる。

「あっっっちっ。」

最初からシリンダー触わってれば良かった。なんだか気が動転している。

俺:「はい。シリンダーあっついです。ちゃんと点火してます。」

goma:「・・・。」

「ってぇ事は・・・。」

キャブを外し、アクセルをひねってみると、スロットルバルブが動かない。

「これだ。」

昨日、キャブはジェットしか見なかった。ふたを開けてみると、スロットルケーブルが完全に遊んでいる。ニードルホルダやリングに欠損の跡は見当たらない。恐らくリングの凸部がニードルホルダの溝に合わせてない状態で組み付けられ、しまいには先程の走行で外れてしまったのだろう。
通常に組み付け、エンジンを始動すると明らかに今までとは違い、普通に回っている。

「ってぇ事は・・・。」

下側の2番シリンダーは常に全閉状態で、ほとんどガソリンを与えられず、点火のみ。1番シリンダーは片側の負荷を背負いつつクランクを回していた事になる。

「これってエンジンにとって物凄く悪い事をした様な気がする・・・。」キャブに気を取られていて片肺に気づかず、グルグル周っちゃった自分が情けない。既にクランクをやっちゃったかもしれない。さすがに慣らしでクランクやっちゃう人も俺しかいないだろう。
まぁやっちゃったもんは仕方ないので気を取り直し、明日の走行に期待する。



翌23日、日曜日。今日も朝から全開晴れ。東のピットは昨日にも増して人も車も増えている。
予めピットを取っておいてくれたすぅさんと合流。すぅさんは来週のもてぎ選にエントリーしている。同じくエリアのGP250にエントリーしているアキラと、エンジンを組み上げたばかりのVTRを持ち込んだおーたも来ている。それぞれが自分のバイクを持ち込んでもてぎに揃うのも久しぶりだ。


今日のレーサー枠は2本。9時半からと11時10分から。今度こそまともに慣らしを終わらせ、全開走行といきたい。
昨日の事件はなかった事とし、最初からやり直すつもりでジェットは昨日と同じ480番のS2から始める。(この誤った判断がまた尾を引くのだが)

特にやる事も無く他のピットを見ていると、来週末にエリアを控えた名門チームが大挙している事に気づく。125にも相当迷惑をかけるだろう。自分とのペースにギャップも感じるし、昨日の一件もあってシートカウルに「ナ」のみでは不安を覚える。
タイムアタックしてる所へ赤旗出まくりのあげくに、ショートカットでおっそい250に引っかかっる気持ちも分かるが、こっちにだって事情っつーもんがある。ルールに従ってやってんのにまた怒られるのも嫌なので、自己防衛策を施す。

「これで文句ねーだろ。」

超ナ あおらないでね(はぁと)バージョン

「どうよ?なごむべ?」

「なんか逆にふざけてるって思われねーか?」

準備万端。9時30分。レーサー1本目の走行開始。アキラに続き、コースイン。

今度は9,000回転から1,000回転につき、2周ずつ慣らしする。昨日のような失火状態にはならないが、11,000回転より上が回らない。やはり濃すぎる。走行残り時間も少なくなってきたので、ピットへ入り、次の走行に備えてジェットを変更する。

回転の上昇が重くなる事はあっても回らなくなるくらいセッティングを外して走った事が無いので、これが本当にセッティングのせいなのか不安になる。トラブルでなければいいが、何れにしても次の走行ではっきりさせたい。

「ラム圧のバイクってこんなもんなんかな・・・。」

そこで更にメインだけ40番絞って440番。これで症状が良くなればセッティングの問題だ。

ここまで天気にだけは恵まれてきたが、走行30分前になると、なにやらいつもの怪しい雲が上空を覆い尽くす。10分前には大粒の雨がポツポツと落ちてくるが、何が降ってこようとセッティングの確認が出来ればそれでいいと腹をくくっていた。

超ナ 雨ふってきたね♪バージョン

そして11時10分。走行開始。今の所路面はまだドライ。ゲートのランプがグリーンに変わる。ピットからバイク発進させ、列に並ぶ。前にいた5,6台がコースインすると同時にヒョウまみれの雨が激しく落ちてくる。
「やべっ。中止になる。早く出ないと。」1周でいい。いや、ストレート1本でいいから走らせてくれ。
そんな願いも空しく、ゲートのランプが赤に変わる。
突然降り出したヒョウと雨に頭を押さえ、「赤旗にしますっ!」と俺に向かって叫ぶコース員。
がっかりしながら1番ピットの横を通り、パドックからピットへ戻る俺。
「なんだかなぁ〜もぉ〜。スイッチ押すなよなぁ〜。」

もはやお約束となった走行直前に落ちてくる大粒の雨。間もなく全面ウェット。このタイミングの良さは絶対人為的なものだと確信する。
コースに出ていったライダーが帰ってくる。
「いいなぁ。1周走れて・・・。」

出走準備していた各ライダーは暖気をやめ、諦める人、慌ただしくレインに履き替える人。
雨は一層激しさを増し、一瞬にしてコースはヘビーウェット。とてもスリックで出て行ける状況ではない。
コントロールタワーから全面ウェットの放送が流れ、再びコースイン開始となる。

俺:「俺、行ってくるわ。」

アキラ:「マジ!?レイン貸そうか?」

俺:「いや、いいよ。めんどくせーし。」

どうしても確認したかった俺は土砂降りの中、無茶を承知でコースイン。

はい。ふざけてます。

この路面で少しのバンクでも、それは即転倒を意味する。あまりに低速すぎて、コーナーは1速でもエンストしそうになる為、クラッチを握りながら空ぶかし。ショートカット立ち上がりからのストレートとダウンヒルストレートだけ全開。直立でもシフトギャップでリアホイールが空転する。
11,500まで回るようになった事を確認し、ピットイン。更にメインを20番絞って再度ピットアウト。やっと12,000回転まで回るようになった。
セッティングのせいだと分かり、ホッとしてピットに戻る。

走行時間が終了となり、一気に青空が広がってくる。気温もグングン上昇し、路面は急速に乾いていく。

意味無し



と、まぁ結局終始まともな状態で走る事が出来ず、シェイクダウンとは言えないシェイクダウンだったが、これもいい経験となった。次回以降は、11月の気温12℃におけるもてぎの参考データと同じメイン410番,ニードルS0に合わせ、ここから様子を見つつ少しずつ絞り込んでいく。

〜 今回の教訓 〜

・マニュアル通りも程々に。
・バイクに乗ってプラグ触わると感電する。



と、これで終わるとシェイクダウンとしては何とも情けないし、ロードレース履歴としても最初の全開走行を記録しておきたいので、次週の初全開走行分も簡単に書いておく事にする。


本当のシェイクダウン

4月27日、木曜日。今日と明日が練習走行日で、明後日のゴールデンウィーク初日がエリア選手権の公式練習日。俺は今日と明日走って明後日を1日整備日に当て、その翌日のエリアを観戦と、4日間ここもてぎに滞在する。要するに怒涛の11連休。
今日の走行は午後しかないし、ゴールデンウィーク2日前のド平日と言う事もあってか、先週末とは違い、ピットに人は少ない。

1本目:午後2時丁度。晴れ。セカンドアンダーのみウェットパッチ。
11,000回転で3周。ここからやっと全開走行を開始するが、12,000回転で頭打ち。8,000回転から使えるエンジンとギア比の違いから、今まで1速で走っていたコーナーも何速で走っていいかわからない。ブレーキもタッチに慣れず、ダウンヒルで時折リアがホップし、恐い思いをする。TZの制動に不慣れな事とVTRのブレーキングポイントが体に染み付いているらしく、どうしても相当手前でブレーキングを開始してしまうが、それでもコーナーに入る時は結構辛い。途中、赤旗中断もあったが、右手がアガり始め、集中力も続かず残り5分で走行終了。全15周の内、14周目の1分34秒19がベスト。

2本目:午後3時40分。コンディション変わらず。メインのみ2ランク絞って両シリンダーとも390番。
「90°コーナー過ぎのトンネル下は相変わらず濡れてますので、1周目、2周目は注意して走行して下さい。」とのアナウンスに、「ってゆーか、はけよ。」と言いたくなりつつ出動。
気合を入れ直し、3周目に33秒台を出すと、そこから17周の走行終了までずっと33秒台〜34秒台の間。エンジンはなんとか13,000まで回るようになるも、12,000回転からの1,000回転上昇が妙に重い。ブレーキングは相変わらず。

今日のベストタイム
1本目1分34秒19
2本目1分33秒10



翌28日、金曜日。昨日とは違い、いきなり人が多い。ピット取りを諦めて車を止めると弾丸とじゅんに遭遇し、ピットに入れさせてもらう。じゅんはエリアの125にエントリーしており、弾丸はその手伝いで来ていた。
今日のレーサー枠は3本だが、最初の2本は予約で一杯。俺は予約していたので走れるが、予約してなかったじゅんは3本目の1本しか走れずかわいそう。

1本目:午前11時20分。セカンドアンダー等コンディションは昨日と同じ。ジェットは昨日より1ランク絞って380番。
45台フルで走行開始。エンジンの調子も昨日とさほど変わらず、タイムも33秒フラット止まり。赤旗も出ず、35分20周を走りきる。ヘッドを見ると、やっと焼けが出てきた感じ。

2本目:午後2時30分。これ以上メインは絞りたくないので、筒をR9に変更し、メインは2ランク上げて400番。
動きの渋かった前後サスもやっと動き始めた感じだが、いまいちしっくりせず、特にリアが入ってない模様。5コーナーやS字立ち上がりで滑り始める。エンジンはどうにか13,000まで回るようになり、フィーリングも良くなった。エリアのエントラントには容赦無く抜かれ、ついても行けないが、ストレートはこっちの方が速い。同じ00TZにはストレートで離されるが、セッティングを聞いたら俺が昨日の1本目で走った時と同じジェットを入れていた。暖気時の音も違うし、やはりクランクやっちゃってるくさい。
エリアの各エントラントは熱く、既にレースは始まっているらしい。90°コーナーで絡んでるわ、S字で飛んでるわで赤旗出まくりだった。
18周の内、後半やっとこ32秒台に入れるのが精一杯。

3本目:午後4時10分。メインは1ランク絞りの390番。最後の走行。
エンジンはさほど変わらず回転も13,000止まり。なんとか目標タイムはクリアしたいと頑張るも、32秒台コンスタント。他のライダーとブレーキングポイントやアクセルの開け方を比較してみれば当然のタイム。S字だけは付いて行けてる感じ。

今日のベストタイム
1本目1分33秒05
2本目1分32秒91
3本目1分32秒70


2周に渡り計5本走ったが、結局32秒後半で終わる。
リアタイヤは右側がかきむしるように減っており、スリップサインが終わりを告げていた。サスが動かず、タイヤで吸収してるのかとも思うが、ノーマルの状態でタイムと言えるタイムが出るまでは車体に手を出すつもり無し。
手にした00TZのスタートタイムは、もてぎ東コース1分32秒後半。次の走行は1週間後のゴールデンウィーク最終日、5月7日。タイヤとオイルを新品にし、まずはの目標タイムをクリアしたい。

以上

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