VTRデビュー(4月30日)
作成日:99/05/23
更新日:99/05/29

4月30日、朝8時。

「んっじゃねー。まったなぁ〜。」

ゴールデンウィーク突入初日となった昨日のうちにもてぎへと移動し、ややフェスタモードの勢いで今回もレンガに宿泊した。(最近少々泊り癖がついてる)
レンガの番犬(誰にでもなつくので全然番犬になってないが)、ジョンこと山犬神に別れを告げ、レンガを後にする。

今日は「あの子を解き放て!あの子は人間だぞ!」と言い返してやった。

それにしても今日は朝から全開晴れ。見事なまでの晴天。VTRデビュー日としてはこれ以上無い絶好のコンディション。
そう、今日はシェイクダウンが終わったばかりのVTRを乗りに来た。

プロダクションの走行枠は午前中1本、午後2本。そちうち真ん中の午後1本目を走らせてもらう事になっている。

青空に映える葉桜が絶妙。

午前8時過ぎにパドック入り。今日はチーフメカニックのスーさんも手伝いに来てくれている。

全然関係ないが、観光バス6台。専門学校生が見学に来ていた。



前回からの変更点はドライブスプロケットとブレーキパッド。
ダメだって分かってるのに、値段に引かれて買った赤パッド。走ってみてやっぱりダメだったので、純正のパッドに交換する。
ファイナルはまるっきりロングだった為、雑誌等のセッティングデータより、ドライブスプロケットを純正の16丁から15丁へ変更する。

ファイナルの変更がどれくらいタイムに影響するのか。午前11時20分、まずは1本目、おーた出動。


今日も練習に来ているトシ。おーたに続き、出動。

この次に走行を控えてる俺。おーたがまともなファイナルでどこまでタイムを伸ばしてくるのか興味深々。

PCでタイム計測を行うえみゅ〜

18秒台から開始したおーたは、17秒台、16秒台と周ごとにそのタイムを縮めていき、9周目には前回までのベストタイム、15秒台を出す。

「ファイナル良さそうだなぁ。問題はこっからだね。」

3周に渡り15秒台を連発するが、そのタイムは少しずつ、しかし確実に縮まっている。
そして13周目、前の周より1秒近く速い14秒台前半を出す。自己ベスト更新。


「結構あっさり出した感じだなぁ。」

次の15周目、ついに14秒をきり、13秒台へ突入する。

「おぉ!13秒後半。出た出た。」

さらに最終ラップ。13秒前半。13秒1を出す。

おーた帰還

「出たねぇ。やっぱファイナル換えて予想通り2秒縮めましたな。」

基本的なファイナルセットは今の状態でOK。これからタイムが詰まってくるに従い、ドリブン側をプラスマイナス1丁の範囲で調整する程度だろう。

俺:「13秒かぁ・・・。」



俺が走る次の走行までは2時間以上あく。バイクのインプレッション等聞きながらゆっくりと昼飯を食う。

俺:「ところで俺、乗れるかな?」

おーた:「ははは。何を今更。大丈夫だよ。走ってて楽しいバイクだし。ブレーキさえしっかりかけとけば。」

俺:「ブレーキングポイントは?」

おーた:「とりあえず150、150、150でいーんじゃん。」

解説
 もてぎフルコースで150、150、150と言ったら、1コーナー、3コーナー、5コーナーのブレーキングポイントを意味する。

俺:「うん。そんな感じだよね。ダウンヒルは?」

おーた:「200。」

俺:「にひゃくぅ?そぉ〜んな手前ぇ?」

おーた:「まぁ、俺は200。でもすんごいスピード出てるよ。」

俺:「そっかぁ。んじゃまぁ200から始めてみるか。」

(ん〜。13秒か・・・。)



昼飯も食い終わり、刻々と走行時間が近づいてくる。当然の事ながら、いつも通り緊張してくる。
Vツインなんて乗るの始めてだし、大体ビックバイク事自体始めて。
せいぜい昔ツーリング行った時に峠でちょろっとおーたにOW乗せてもらった事がある程度。回転上げなくてもすんごいスピード出て全然走れなかった事を記憶している。

常にピカピカの状態に保たれるVTR。小さい汚れ1つ見逃さない。当然、これ乗って転倒なんぞ出来るわきゃない。

(こんなパワーあるバイク乗れんのかなぁ。立ち上がりでパワースライドして転んだらやだなぁ。)
(13秒かぁ〜。13・・・。)

乗れる嬉しさと不安感が交錯し、どうにも落ち着かない。

(いやぁ・・・13秒ねぇ・・・。)その辺をうろうろしながら考え込む俺。

goma:「どした?」

俺:「13秒。」

goma:「まぁ〜たぁ〜。もぉ〜。とりあえず、慣らし慣らし♪」

俺:「ん〜。そうなんだけど・・・ってゆーか、もうバイク磨かないで欲しいんだよね。」

goma:「なんでよ?」

俺:「だってどうせ転んでぶっ壊して帰ってくるんだし。」

goma:「何言ってんのっ。ダメです。(キッパリ)」

俺:「そっかぁ。ダメかぁ・・・。」

気ぃ紛らわしの冗談を言ってるうちに、走行時間となる。


装具を身につけ、準備万端のVTRに跨る。

でかい。重い。ハンドル高い。跨った第一印象。

VTRはドヒュドヒュドヒュと図太い音をたて、1,300回転で安定してアイドルしている。
アクセルに手をかけ、軽くスナップさせてみる。

ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!

「おぉ〜・・・。」

さらに6,000回転付近まであおってみる。

ドバヒュン!ドバヒュン!ドバヒュン!・・・ドヒュドヒュドヒュ・・・

ドババヒュン!

「おぉ〜・・・すげぇ〜。」

1リッターの排気音があたりにこだまする。体全体に振動が伝わってくる。


そしていよいよ走行時間開始となる。気を引き締め、クラッチを握り、ギアを1速に入れる。
ややアクセルを開けながらクラッチレバーを徐々に離していき、繋がるポイントを探る。

そろそろと前に進むVTR。一旦クラッチをきり、車体を停止させた後、今度は普通に繋いでみる。

バァァァァッバァァァァッ

生まれて始めてVツイン1リッターの強大なトルクを体感する。
2速まで入れた所でアクセルを戻し、グッっとブレーキレバーを握って車速を落とすと、ピットアウト出口手前に設けられたパイロンを通過する。

係員の前で一旦停止し、カウルに貼った走行ステッカーにサインしてもらう。

コースイン。

1速、2速、3速。ゆっくりと1コーナーを通過し、立ち上がった所で徐々に全開。
レッドゾーンは9,500回転から開始されている。とりあえずは8,000回転付近でシフトアップ。
グワッっと加速するVTR。速いというより、なにしろ前に進むといった感じ。

「はっ、はえぇっ。」

一気に3コーナーが近づく。200メートル看板からブレーキをかけ始め、2速でゆっくりと3コーナーへ進入。
4コーナー立ち上がりからのストレートで又強力な加速を感じ、5コーナーも2速でゆっくりと進入。

ストレートは全開。コーナーはツーリング。計測開始から3周はこんな感じで各コーナーのギアやエンジンブレーキ、倒し込みの感覚を覚える。その間のタイム24秒から25秒。
だんだんと体も慣れ始め、3周目の最終コーナー立ち上がりから徐々にペースを上げていく。まずは言われた通りのポイントでブレーキングを開始する。

1コーナー。150メートル看板ちょい手前でブレーキング。ギュゥっと握りながら4速へ落とす。ちょっと間を置き、3速に入れた瞬間倒し込む。少しずつバンク角も増やしていくが、膝は擦らず、どこまで倒せばフルバンクなのか見当がつかない。
とりあえずはハンドルに力を入れず、ナチュラルステアに心がけ、バイクなりに旋回する。

フルバンクが掴めず、とりあえず全開ムリヒザ。

解説
 『ムリヒザ』とは無理に膝を出す事。峠でよく目にする事が出来る。ちなみに『全開ムリヒザ』とはかなり無理に膝を出す事。
 『ムリヒザ』の最上級として『オニヒザ』というのもある。鬼のように膝を出す事である。

2コーナーを3速で立ち上がり、9,000回転で4速、5速とシフトアップ。今度も150メートル看板やや手前でブレーキング。5→4→3と落とし、一発あおっといて2速で進入。

一次旋回開始時にはブレーキングを終了しておいた方が良さそうで、リリースしたタイミングで倒し込むと絶妙に方向が変わる。フロントの内向性が強いと言うかなんと言うか、自分が行きたい方向へスパッと向きを変えてくれる。
そしてそのままクリッピングポイントを過ぎ、徐々に過重をかけていくと、今度はリアが外に押し出されるような感じでこれまた絶妙なリアステアを感じる。

3、4コーナーではこの特性が特に顕著に現れており、気持ち良く4コーナーを立ち上がる事が出来る。技術の進歩かホンダの技術力か。コーナリング特性は感動ものだ。

4コーナーを3速で立ち上がり、4速、5速とシフトアップ。やはり150メートル看板やや手前でブレーキング。5コーナーも2速で進入。
立ち上がって3速。4速に入れると同時に130R。今のペースではS字までに5速へ入れる事が出来ない。

1速落とし、3速でS字へ進入。運動性能が良いせいか、切り替えしでバイクの重さはそれほど気にならない。

リアの旋回性を感じながらS字を立ち上がり、Vコーナー進入は2速。立ち上がって3、4速とシフトアップし、ヘアピンも2速。

ダウンヒルストレート。ファイナルを換えた為、バッチリ6速まで入る。スピードが恐い。輸出仕様のスピードメーターが付いてるが、そんなもん見る余裕は無い。
そんな事より、ハンドルが左右に思いっきり振られる。6速全開でブレーキングポイント手前の一番スピードが乗る所からグラグラっときたかと思うと、その振れは急激に増大し、もうどうしようもなくなる。とても手ダンなんかで収束できるレベルじゃない。

解説
 『手ダン』とは手ステアリングダンバーの略。つまり、両手でハンドルを押え込む事を意味する。

「うわっ!」

たまらず200メートル看板手前でアクセルを戻し、ブレーキング。
フルブレーキングで2速まで落とす。90°コーナーが一気に近づく。確かに制動距離を必要とする。90°コーナーを立ち上がって3速。セカンドアンダーをくぐり、最終コーナー手前で2速。

最終コーナーを立ちあがり、ホームストレート。この周のタイムは20秒後半。5周目に突入。

「こっ、こわかったぁ。おーたの言ってたブルブルってのはあれかぁ。」

6周目になると3コーナーからのストレートエンドでも振られるようになる。ダウンヒルもやはり200メートル手前でブレーキかけざるを得ない状況。タイムは18秒後半。

ペースが上がるにつれ、進入でも立ちあがりでもフレームの”よじれ”のようなものを感じる。剛性の高いTZと違い、なにかエンジンだけが走ってるような・・・。

「まじかよ。このバイク・・・。あいつこれでよく走ってるよなぁ・・・。」

ハンドルの振れはVコーナー立ちあがりの4速全開区間でも起きるようになっていた。
全ストレートエンドでグラグラと左右に振られる。設定したポイントでブレーキをかける事が出来ない。

「なんで4速でもこんなんなるかなぁ。これじゃ7時間走れねーぞ・・・。」

どうも振動の原因はケツの下あたりから発生している感じ。それがフレームを伝わってフロントに影響しているような感覚。

「しかし、4速で振られるのはヘアピン手前だけだな・・・。」

なんとなく、コーナーへのアプローチに備えてケツをずらした直後から振られてるような気がする。
ヘアピンは右コーナー。手前のVコーナーは左。直線の間にケツは左から右へ動かす。

「ん?ひょっとして・・・。」

試しにそぉっとケツをずらしてみると、多少はましになる。

7周目のタイムは15秒後半。

プロダクションクラスでこの辺のタイムだと、次から次へと前からバイクが近づいてくる。
ハンドルはブルブルするわ、ストレートでしか抜けないわでここからのタイムがなかなか縮まらない。
3周程こんな状態が続く。11周目のタイムは14秒後半。
しかし、13周目。最終コーナー立ちあがりで1台パスすると、1コーナーまでにバイクは1台もいない。サインボードは14秒前半を示している。

「よっしゃ!この周がクリアラップだ。このまま13秒に入れてやる。」

1コーナー。150メートル看板。アウト一杯で完全直立ブレーキング。3速まで落とす。
出きるだけスパッっと倒し込み、2次旋回。ジワッっとアクセルを開け始める。



2コーナーのクリップをかすめ、ググッと開けていく。



リアタイヤがズルゥ〜っと滑り、バイクが横を向き始める。反射的にアクセルを戻す。

「あぶねっ!」

アクセルを戻した反動により、取り戻したグリップの挙動でバイクが揺れる。

「こっ、こわかったぁ〜。あーもーこわかったこわかったこわかった。」(ドキドキドキ)
「もぉ〜やめやめやめ。これ以上ペースアップすんのもぉぉぉやめた。」(汗;汗;汗;)

ホントに転ぶ所だった。1本目から転んでたらシャレんならん。折角のクリアラップだが、肩の力を抜いてマイペースで走り、チェッカーとなる。

なんとか無事に走行を終え、帰還。

俺:「いやぁ〜もりカーブでやっちゃう所だったよ。」

おーた:「何?いきそうになったの?」

俺:「うん。後ろずるぅ〜って滑ってもり状態寸前。マジ飛ぶ所だった。」

解説
 『もりカーブ』とは2コーナーの事。ピンポイントで言うとクリップからややバイクが離れ始めたあたり。
 ここで『もり状態』と言ったら立ち上がりでリアを滑らせて転倒する事を意味する。
 (内輪ネタですんまそん)

俺:「ちなみに最終ラップ何秒だった?」

goma:「13秒台出たよ。13秒9。」

俺:「うそ!?やる気無くしてそんな攻めてなかったんだけど。」

タイムとは不思議なものである。



午後4時10分からの走行が本日最後の1本。

本日最後の走行に出動するおーた。

しかし俺の走行で既にリアタイヤが終わっていた為、満足なタイムアタックが出来ずに走行を終える。

終了したリアタイヤ。見た目的には全然OK的。

初めて乗ったVTR。ストレートエンドはメチャメチャ振られるし、進入でも立ち上がりでもグニャッっとした感じでバンク角が掴みづらい。ノーマルだからフレームのよじれ感は目をつぶるにしてもハンドルの振れは何とかしたい。次回までの大きな課題だ。
又、ステップもノーマルの可倒式である為、イン側の踏みかえで引っかかる。これは慣れの問題だと思うが・・・。
スクリーンはレーシングユースでは使い物にならないと言っていい。歪みがひどく、ブレーキングの目印となる看板は見にくいし、サインボードの数字にいたってはまったく読めない。直接タイムに影響する所でもなさそうだが、ギャラリーの多いホームストレート通過時に一瞬だけぴょこっと頭を上げるのは非常にカッコ悪い。タイムが出ても格好悪くちゃいかん。格好はタイムより優先される。早急なる交換が必要だ。
ブレーキも効かないが、これはステンレスメッシュホースを入れ、サスセッティングで対応可能な範囲だろう。
エンジンは申し分無く、極端な言い方をすれば1速上のギアでコーナーへ進入しても低回転域から加速していく。リカバリーしやすく、レースでは強い味方となってくれるだろう。
コーナリングは抜群。フロントとリアの役割がライダーに伝わりやすく、進入と立ち上がりでそれぞれが積極的に向きを変えてくれる。ものすごくバランスの取れた車体だ。


ワインディングでは相当楽しいバイクだろう。逆にこれをレースで満足に使うには、車体の問題だけに多額の投資が必要となるようだ。
しかし、それは最初から承知していた事。去年同様、俺らは俺らのやれる範囲で今年の耐久を楽しみたい。それにあのFZRよりは何倍もマシだ。1年目の苦労は買ってでもするものである。はっはっは。


今日のベストタイム
HIRO2分13秒93
おーた2分13秒10

〜 今日の教訓 〜

・ちっとも教訓でない今日の教訓は今回で終わりだ!

以上

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