公式練習(8月20日)
作成日:98/08/24
更新日:98/08/26

前日の19日水曜日夜、いつものように会社から帰ってくると、支度を済ませ、車に荷物を積み込む。

いよいよ迎えた本番に向け、もてぎへと車を走らせる。

今週は仕事も全然手に着かなかった。頭の中は7耐一色に染まり、俺的には月曜から既にレースウィークに突入していた。

夜中の1時頃、北ゲートに到着。RSオータのトランポを見つける。アキラはまだ起きていた。

100台エントリーのレースに、大した駐車場の無い北ゲート前はトランポで溢れかえるだろうと思っていたが、今の所5,6台しか止まっていない。

「この時間でまだみんな来てないのかな・・・?」とりあえず、寝る準備をする。

すると、4,5台程のトランポがやってくる。

(この調子でこの後どんどん入ってくるんだろーな。明日の朝はゲート前大渋滞だな。)
と思っていると、そのままゲートに向かっていくトランポ。ゲートの警備員と話をしている。

「何やってんだあいつら。入れねっちゅーの。」(俺も1回やったけど)

暫く警備員と話をしていたかと思うと、そのままゲートを通過し、サーキットへ入っていくトランポ達。

「え!?あれ?入っちゃってるよ・・・。」

「ちょっと。誰か聞いてきてよ。」3人で顔を見合わせる。

「ジャンケン。」とGOMA。

「じゃぁーんけぇーんぽんっ!」一発でGOMAの負け。

「んじゃ、よろしく。」

ゲートの警備員に聞きに行き、1分程で帰ってくる。

「なんか、本当はいけないんだけど、ゲート前はトイレとか無いし、入れちゃってるんだって。」

「あっそ。んじゃ行こうぜ。」

ナイター照明に照らされたパドックにトランポがわんさと居る。

「ここに居たんか。どーりで少ねーと思ったよ。」割り当てられたピット前へ車を止め、寝る準備をする。

昨日は朝5時起きだった為、やたら眠い。両サイドの窓を少し開け、数分で眠りについた。



開けて翌朝。やや薄雲のかかったいい天気。絶好のコンディション。

周りを見渡してみると、殆どの駐車スペースに車が止めてある。初めて見る光景だ。なんかウキウキしてくる。

指定された32番ピットに荷物とバイクを運び入れ、走行迄に必要な作業を行う。

ブレーキパッドは耐久性を考え、ベスラーのメタルパッドを入れてみる。今回初めて使う。

オイルを交換し、チェーンも新品にする。

テストに使用するパッドGB520TRU

オイルはカストロールシントロンを使用

それぞれ作業をする。俺は色を塗ったシートカウルにポンダーの取り付け作業。

そして色を塗ったカウルとタンクを取り付ける。

FZR VersionW
因みに最初がVerT。ヘッドメンテでVerU。エンジン乗せ換えVerV。色塗ってVerW。

そして、え〜ぼに作ってもらったシールを貼る。(感謝!)

タンクとナックルガードに各々貼る。

完成!FZR VersionX 7耐仕様。これが今回の出場車両だ!



今日の特別スポーツ走行は、A,B各グループ4本ずつ。1本40分の走行枠が組まれている。

我々は偶数ゼッケンで、Bグループ。最初に走るのはアキラ。

きっちりとガソリンを計量して入れる。3人の内、一番速いアキラの40分走行から、燃費の基準データを得る。

エンジンを始動し、暖気する。乗せ換えたエンジンは相変わらずヒュンヒュンといい音がする。

しかし実走する迄は、まだ気を抜けない。9時55分。Bグループ1本目、アキラ出動。

Bグループ1本目、アキラ出動。

プラットフォームに立って最終コーナーから磯間が現れるのを待つ。TSRのCBRが凄い勢いで立ち上がって来る。
(実際見てみると、思ったより鮮やかな青色なんだなぁ・・・。)

「来た!」サインボードを出す。
「いや、違う。」サインボードを引っ込める。

「これか!」サインボードを出す。
「これも違う。」サインボードを引っ込める。

「なんか同じ色のバイク多いねぇ〜。」

「き、・・・いや、・・・来た!あれだ!」紺色のFZRが最終コーナーを立ち上がり、目の前を通過する。計測開始。

「なんか全然目立たないバイクだなぁ。」

「同じ色のバイク多いし。」しかも同色の他のバイクよりなんか汚い色に見える。

(やっぱ、黒にしときゃよかった・・・。)因みに黒は1台も居ない。

(こーゆーのって世間一般で言う所の、いわゆる失敗って奴だな。)

1周を終え、再び最終コーナーから立ち上がってくる。何度見ても地味な色。

タイムは2分24秒92。

次の周は24秒前半。3周目に18秒を出すが、4周目は20秒とタイムを落とす。

ストレートもスピードが乗っていない感じ。不安がよぎる。どう考えても彼の出すタイムとは思えない。

5周目に、転倒車による赤旗が提示され、走行は一時中断。アキラがピットインしてくる。

「どうしたの?」

「いや、全開攻めてきたよ。」

「エンジンは?」

「ん〜。パワーが無い感じ。もっと絞ったほうがいいね。」メインジェットは前回の練習走行で入れた135番。今日の天候には濃すぎたようだ。

とりあえず、エンジン本体が壊れている様子は無さそう。

「あれ!?何これ?」右のブーツ。つま先あたりが何かで濡れている。

急いでバイクに駆け寄り、原因を探る。確かにステップ周りが何かで濡れている。

「リアのフルードかなぁ?」

「漏れてる感じは無さそうだけどなぁ。」

「いや、待て!・・・オイル!エンジンオイル漏れてる!」

見ると、ケースカバーに、転倒による亀裂が入り、そこからエンジンオイルが漏れている。

RSオータが今まで使っていたエンジンからカバーを取り外しに行く。その間、俺はこのカバーを外す。

アンダーカウルを外し、カバーの交換作業を行う。

予備のガスケットを持っていない為、カッターで慎重に外す。

転倒車両の回収作業が終了し、再び走行が開始された。

ガスケットがうまく張り付いてくれず、思うようにカバーがはめられない。
液体ガスケットで張り付かせようと思ったが、チューブ内で固まっており、使いものにならない。
緊急処置として、セメダインで強引にガスケットをクランクケースに固定させる。
スタータモーターのギアがうまくかみ合わず、思いの外作業が難航する。

作業を見守るアキラ。一刻も早くコースに復帰させたい。

やっと交換が終了し、再びピットアウトするアキラ。作業に12分を費やした。アンダーカウルは外したまま。

アンダー無しで再出動。

しかし、走行時間は殆ど残されておらず、満足な周回を得られないまま、チェッカーとなった。

ここへきてまでも、又いきなりのトラブル。本当にこれが最後となって欲しい。


走行を終え、アキラが言う。

「アンダー外して走ったらさぁ〜・・・。」

「うん。」

「水温10°下がったよ。」

「あ、そう?んじゃアンダー付けるのやめよーぜ。」

晴れている日の水温はいつも100°を突破していた。(ラジエター内は1気圧以上の圧力がかかっているので、100°を越えるらしい)
気にはなっていたが、FZR用のでかいラジエターもでてないらしく、仮にあったとしても新品を買える程の余裕も無い。

オイル漏れが思わぬ効果をもたらした。あれがなければ決勝もアンダーカウルを付けて走っていただろう。

赤旗による中断も、オイル漏れしていた状態で走行を続けていた事を考えれば、ラッキーだった。



次の走行に備え、メインジェットを交換する。

メインジェット交換。3番落とし。#135→#132。

再度、残ガスを抜き、きっちり12リッターをタンクに入れる。

そして今度こそのBグループ2本目、11時45分。アキラ再出動。

ここからが凄かった。1本目のうっぷんを晴らすべく、いきなりタイムを出してくる。

トラブル続きで積もりに積もったフラストレーションがここへきて一気に爆発した。

計測開始から1周目、いきなり俺のベストタイムに近い数字。16秒17。

2周目はなんと一気に13秒代に入れてくる。13秒98。彼自身のベストタイム。

3周目はさらにつめ、13秒代前半のタイム。2分13秒42。ベストタイム更新。

本気になった時のあいつはいつもこんなタイムの出し方をしてくる。とても真似出来たもんじゃない。

その後、バックマーカーに阻まれながらも、13秒から14秒コンスタントで、全14周を走りきる。

モニターでタイムと順位を確認してみる。

POS TEAM TYPE TIME

18 78 YSP八王子中央&Compus FZR400RR 2’13”420

「これでも40台中18位かぁ・・・。結構みんなはえーんだなぁ。」

「結構ギリギリの所に居るんだな。」

100台エントリーだが、実際の予選出走は90台位になるだろう。
90台中、50台が予選通過って事は、今の走行でBグループ40台中、22位以内には入ってないといけない計算になる。

「まっ、今んとこギリチョンセーフって所だな。」お気楽な俺に対し、何故かアキラは浮かない顔をしている。



メインジェットはさらに1ランク絞り、130番。

14時25分。Bグループ3本目、RSオータ出動。

今のファイナルで満足に走るのは、これが初めてのRSオータ。走行自体も久しぶりとなる。

1周目を27秒で通過した後は、21秒から23秒の間で6周する。

7周目、20秒を出したかと思うと、8周目、19秒47。
ポンポンと1秒ずつ縮めてくる。

その後5周連続で19秒代。全てプラスマイナスコンマ3秒以内とコンスタントに走行し、全14周で走行を終える。

ベストタイムは2分19秒371。彼自身のベストタイムでもある。

40台中、29位とモニターが表示する。
RSオータ久々の出動。



メインジェットは130番でバッチリ。まぁこれ以上絞りたくても、はっきり言ってこの下は122番しか持ってない。

16時15分。Bグループ4本目、本日最後の走行。

いつもはコンタクトレンズで走行しているのだが、30分も走ると目が走行風で充血し、真っ赤になる。
そこで今回は耐久に備え、専用の眼鏡を作ってきた。そのテストも含まれている。

又、どーでもいーが、カッコ付け用にシルバーのミラーシールドを買ってきた。
(前にもカッコ付けでレインボーなミラーシールドを買ってみたが、左右の色が違う為、遠近感が掴みづらく失敗に終わった事がある。)

クラッチを繋ぐと、ヤマハ特有の[ヒョロロロォォォォ・・・]といい音がする。

2人とも自己ベストを更新している。エンジンは完全に復活した。

(俺もいっちょがんばんねーとな。)

コースを1周し、ストレートに帰ってくる。コース上はオールクリア。オイル漏れも無し。

(32番ピットだと、最終から結構近いんだよなぁ・・・。)

(うちのサインボードはぁ・・・・あった。)

(げ。なんか数字全然見えないなぁ。)

サインボードの数字が殆ど認識出来ない。ミラーシールドは思った以上にスモークだった。(因みにライトスモークは売り切れだった。)

もう1周する内に、又いやな事に気づく。ブレーキングポイントの基準となる看板の数字がこれマタ見にくい。

S字の立ち上がりでは、光の加減によりレンズの左縁が光り、アウト側からバイクに抜かれる錯覚を覚える。

眼鏡&カッコ付けシールドの失敗が確認された走行となった。

あと、気が付いた点と言えば、今回初めて仕様するベスラのメタルパッド。
効きはいいが、かけた時の立ち上がりがリニア過ぎて、俺的では無かった。まぁ慣れの問題だとは思うが。
因みに他の2人には好評だった。

タイムの方は、3周目から6周目が17秒代。7周目、8周目と16秒代を出すが、自己ベストには及ばず。
さらにタイムアップを望むべく攻めていくが、2コーナーやS字の立ち上がりでリアタイヤが滑り始めた。

今履いているタイヤはこれで5本目。時間にして約2時間半。そろそろ無くなってきたらしい。
立ち上がりでバイクを立てつつ、アクセルを開ける。

いつも無くなったと思ったら新品に交換して走ってた俺には結構辛い状況だった。
拾ったタイヤで自己ベストを更新する彼らと違い、ボンボン走りの俺はこういった状況に強くない。

眼鏡をかけて、俺出動。

9周目、10周目も17秒代。11周目、12周目はさらに1秒落とし、18秒代。13周目に17秒後半迄持ち直すが、
14周目と15周目は19秒代。16周目の最終ラップに気合いを入れるが、18秒代止まり。

40分一杯使って、16周を走りきった。こんなに走ったのは勿論初めて。しかし以外と疲れなかった。

結局自己ベスト更新ならず。順位は38台中、23位。こんなんじゃ楽勝で予選落ち。

予想通り、トップは2分をきってきた。

本日全ての特別スポーツ走行が終了した。



明日の予選に備え、ミディアムコンパウンドのスリックに履き替える。

しかし、相変わらずリアのビートは上がらない。

組むの5分、上げるの1時間。

やっとの思いでタイヤを履き替え、全ての作業が終了した頃は既に8時近く。

こんな時間になってもまだ人が一杯居る。


各ピットから明かりが漏れる。レースウィーク中の、このパドックの雰囲気は独特だ。

トラブルを抱えて、ピットでマシンを整備しているチーム。

パドックでバーベキューをしているチーム。
焼き肉のいい臭いとともに、酔っぱらった笑い声がこだまする。

これだけのトランポが夕方になってもパドックに残り、それぞれの時間を過ごしている。

こんな雰囲気を味わうのは何年ぶりだろう。恐らくレース全盛に陰りが見えた’92年依頼だろうか。

何となく懐かしさがこみ上げてくる。

この時何故か、(俺らって今、デカイレースに出てるんだなぁ)と今更ながら実感する。

夕暮れ時のパドック。



風呂に入り飯を食う為、一旦パドックを後にする。飯の帰りにコンビニへ寄り、氷と酒を買って又パドックへ戻って来る。

そしていつもの車中宴会。話題の中心は、やはり気になる明日の予選。

「やっぱ11は出さないとなぁ。」とアキラ。

7月2日に行われた1回目の公開練習が終わった頃からずっとそんな事を言っている。

アキラ:「ボーダーは10秒か11秒になってくると思うよ。」

11秒っつたら俺の自己ベストより5秒も速いタイム。

俺:「そぉ〜お?大丈夫だよ。今日13秒で18位だったべ?」

アキラ:「ん〜。そーだけど。予選でみんなタイム上げてくるでしょ。」

俺:「だいじょぶだいじょぶ。俺のタイムで予選通るから。明日は15秒出すし。」

予選は第1ライダーと第2ライダーの内、速いタイムが予選タイムとして採用される。2人の平均タイムではない。

確かに今日の公式練習を見る限り、思いのほか厳しい予選となる事が想像されたが、今まで他のライダーと練習で走ってきた感覚から、
あまり予選落ちするとは思っていなかったし、むしろ自分のタイムで予選通過出来るとさえ思っていた。

明日はいよいよ公式予選。5月から今日迄3ヶ月も準備してきて、3人で多額のお金と時間と労力を費やしてきた。
あさっての決勝当日には人も沢山呼んである。

ここまでして予選落ちなど出来る訳がない。

考え始めると緊張で寝られなくなる。

と、思いつつ、仰向けになってから5分後には意識を失っていた。


本日のベストタイム
アキラ2分13秒420自己ベスト更新
HIRO2分16秒643
RSオータ2分19秒371自己ベスト更新

〜 今回の教訓 〜

・エンジン完全復活!
・眼鏡失敗!シールド失敗!
・絶対予選突破!

以上

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